大判例

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東京地方裁判所 平成11年(ワ)28240号 判決

原告 株式会社おごせロイヤル

右代表者代表取締役 城嶋渉

右訴訟代理人弁護士 吉ケ江治道

被告 中央ファクタリング株式会社

右代表者代表取締役 石田幸博

被告 石田幸博

右両名訴訟代理人弁護士 山崎司平

同 谷生泰斗

右両名訴訟復代理人弁護士 柴田未来

被告 国

右代表者法務大臣 臼井日出男

右指定代理人 齋藤紀子

同 内田健文

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告に対し、各自、八七三二万二〇〇〇円及びこれに対する平成一一年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、第三者からのリース物件(ゴルフカート等)に対する動産執行(執行官による差押え)が違法であり、その後になされた執行官による引渡執行も違法の瑕疵を帯びると主張して、右引渡執行によりゴルフカート等の使用ができなくなった原告が、被告国に対して国家賠償法一条一項に基づき、また、右各執行の申立てを指示した被告中央ファクタリング株式会社(以下「被告会社」という。)の代表者である被告石田幸博(以下「被告石田」という。)に対して不法行為(民法七〇九条)に基づき、具体的な申立手続などをした従業員を雇用する被告会社に対して使用者責任(民法七一五条一項)に基づき、その被った損害の賠償を請求した事案である。

二  基礎となる事実(当事者間に争いがないか、証拠等により容易に認定できる事実)

1  被告会社と株式会社武蔵総合スポーツランド(以下「武蔵総合ランド」という。)他間の約束手形金請求事件(東京地方裁判所平成八年(手ワ)第一八六号事件)について、被告会社は、平成八年四月五日、別紙1のとおりの手形判決(以下「本件手形判決」という。)を得た。〔争いない〕

2  被告会社は、本件手形判決を債務名義とし、武蔵総合ランドを債務者として、浦和地方裁判所川越支部所属の執行官に動産執行の申立て(浦和地方裁判所川越支部平成八年〔執イ〕第六四四号)を行った。〔争いない〕

3  浦和地方裁判所川越支部所属の執行官は、右申立てに基づき、平成八年四月二六日、埼玉県入間郡越生町大字津久根八三〇番地所在のウィルソンゴルフクラブジャパン鶴ケ島コース(以下「本件ゴルフ場」という。)において、債権者(被告会社)代理人大塚誘一、債務者(武蔵総合ランド)営業部長中村貞成立会のもと、別紙2の動産(別紙4の動産を含む)を差し押さえた(なお、保管者は債務者〔武蔵総合ランド〕であった。以下「本件動産執行」という。)。〔争いない〕

4  なお、本件手形判決に対しては異議が申立てられ、平成九年二月二六日に本件手形判決を認可する旨の判決(東京地方裁判所平成八年(ワ)第七〇一一七号約束手形金請求事件)が言い渡された。さらに右判決に対する武蔵総合ランド他からの控訴に対しては、平成一〇年七月一六日、控訴を棄却する旨の判決(東京高等裁判所平成九年(ネ)第八八八号約束手形金請求控訴事件)が言い渡され、本件手形判決は確定した。〔争いない〕

5  被告会社は、浦和地方裁判所川越支部平成八年〔執イ〕第六四四号動産執行事件について、同支部に対し、原告を占有者として引渡命令の申立てを行い(平成一一年ヲ第三〇〇号、民事執行法一二七条一項)、平成一一年四月一六日、同支部は、原告に対してその占有する別紙2の動産を執行官に引渡すべき旨を命じた。〔丙2〕

6  被告会社は、浦和地方裁判所川越支部所属の執行官に対し、右引渡命令に基づく執行の申立て(平成一一年〔執ロ〕第九九号)を行い、同支部所属の執行官は、平成一一年四月二三日、本件ゴルフ場において、別紙3の動産について、原告が占有しているとの認定のもと、原告の占有を解きこれを執行官保管とする引渡執行をした(以下「本件引渡執行」という。)。〔争いない〕

三  争点

本件動産執行及び本件引渡執行について、違法性が認められるか。

四  争点に関する原告の主張

(被告らの認否及び主張等は【 】内記載のとおり。)

1  執行官の違法行為

(一) 本件動産執行について

(1)  占有者の認定についての誤り

株式会社日本エネルギー商事(以下「日本エネルギー」という。)は、本件動産執行に先立つ平成八年二月二八日、武蔵総合ランドから本件ゴルフ場について営業譲渡を受けた。したがって、本件動産執行がなされた同年四月二六日当時、本件ゴルフ場及び本件ゴルフ場内の動産を占有していたのは、日本エネルギーであった。しかるに、執行官は別紙2の動産を武蔵総合ランドが占有するものと認定して差押えをした。

右のとおり、執行官は、過失により占有者の認定を誤ったもので、本件動産執行は違法である。

【被告ら-傍線部分は認める。武蔵総合ランドから日本エネルギーに対する営業譲渡は不知。執行官は本件動産執行の際、武蔵総合ランドの営業部長と名乗る中村貞成と同社の課長と名乗る添谷征夫と面談し、両名が本件ゴルフ場の経営を武蔵総合ランドが行っていることを認めたことから、同ゴルフ場内にあった物件について、武蔵総合ランドが外観上直接支配を及ぼしている状態と認定して差押えを行ったもので、占有者の認定に誤りはなく、何らの違法もない。】

(2)  明らかに第三者の所有に属すると認められる物を差し押さえたことの誤り

本件動産執行で差し押さえられた別紙2の動産のうち、別紙4の動産(以下「本件ゴルフカート等」という。)は、本件動産執行当時、三国商工株式会社(以下「三国商工」という。)からのリース物件で所有権は同社にあり、しかも同社のステッカーが貼付され、本件動産執行に立ち会った武蔵総合ランドの中村貞成は右事実を指摘し、かつ、その契約書も示した。しかるに執行官は本件ゴルフカート等を含め別紙2の動産を差し押さえた。

明らかに第三者の所有に属すると認められる動産は、債務者の占有するものであっても差押えの対象にはならないと解すべきであるにもかかわらず、右のとおり、執行官はこれを誤って差押えを行ったもので、本件動産執行は違法である。

【被告国-本件動産執行に立ち会った中村貞成が、本件ゴルフカート等がリース物件あるいは第三者の所有物であるとの陳述をしたことは認め、同人が契約書の提示をしたことは否認、リース契約の存否及びリース物件の所有関係、ステッカーの貼付については不知。

被告会社及び被告石田-本件動産執行に立ち会った中村貞成が、本件ゴルフカート等の契約書を提示し、リース契約の存在を指摘したこと及び本件ゴルフカート等にステッカーが貼付されていたことは否認し、リース契約の存否及びリース物件の所有関係は不知。

被告ら-差押えの対象となるのは、「債務者の占有する動産」である。執行官は、所有権が債務者に属するかどうかを調査することなく、債務者の占有する動産であればこれを差し押さえてもよいのであり、債務者の占有する動産を執行官が差し押さえた場合、債務者以外の者がその所有権を有していたとしても、原則として差押えが違法となることはない。所有者としては第三者異議の訴えによって救済を求めるのが法の予定するところである。したがって、債務者が自己の所有に属さないことを主張して、これを証すべき文書などを提出したりしたとしても、執行官はこれを差し押さえることができる。執行官は、本件動産執行において、武蔵総合ランドが外観上本件カート等に直接支配を及ぼしている状態か否かの観点から判断し、直接の支配を及ぼしている状態であると認定して差し押さえたもので、何らの違法もない。】

(3)  執行官は、差し押さえるべき動産の選択に当たり、債権者の利益を害しない限り、債務者の利益を考慮する義務を負うところ、本件動産執行にあっては、これを怠り本件ゴルフカート等を差し押さえたもので、違法である。

【被告ら-否認ないし争う。執行官は、差押えに適する物が他にあるか否かを自己の責任において判断して差し押さえたもので、執行官に義務の懈怠はない。】

(二) 本件引渡執行について

本件動産執行が違法である以上、それを前提とする引渡執行も当然違法の瑕疵を帯びるものである。

【被告ら-争う。本件引渡執行は、執行裁判所の引渡命令に基づく執行であり、そもそも執行官の執行行為のどこに違法性があるのか不明である。引渡命令は、差押物を第三者が占有するに至ったとき、第三者の占有権限の有無を問わず、さしあたり差押え当時の占有状態を回復するものである。】

2  被告会社及び被告石田の不法行為

被告会社の代表者である被告石田は、本件動産執行の申立てにあたり、本件ゴルフカート等がリース物件であることは知りながら差押えの目的物として記載するよう従業員に指示し、本件動産執行の申立書の目的とする財産の表示中に少なくとも本件ゴルフカート等を含むような記載をさせ、さらに、本件動産執行の現場において、被告会社の従業員大塚誘一及び佐藤安彦をして、執行官に対して本件ゴルフカート等に対する差押えを強く要請させた。その結果、右執行官は、本件ゴルフカート等に対する差押えを行った。したがって、被告石田及び被告会社の従業員らの行為も不法行為を構成する。

【被告会社及び被告石田-本件動産執行の申立に際し、差押えの目的となる財産としてカート類を例示したことは認めるが、その余は否認ないし争う。】

3  損害

原告は、本件引渡執行により、次のとおりの損害を被った。

(一) 本件引渡執行により、原告はゴルフカートが使用できず、平成一一年四月二三日から同年一二月六日までの土曜日、日曜日及び祭日にゴルフカートを他から賃借する必要が生じ、その賃料合計七六〇〇万円の支払義務を負い、その運搬費用(人件費を含む)一〇五万円の支払を余儀なくされた。

(二) (一)と同様の理由でグリーン用スィーパーが使用できず、これを他から賃借する必要が生じ、その賃料(運搬料を含む)合計三〇万円の支払を余儀なくされた。

(三) (一)と同様の理由でバンカー均し機が利用できず、平成一一年四月二三日から同年一二月五日までの二二六日間、二人の臨時社員を雇用して毎日バンカー均し作業に従事させなければならず、費用として四九七万二〇〇〇円を要した。

(四) 信用毀損

原告は、右(一)のとおり、他社の名称の表示されたカートを使用せざるをえなくなり、利用者が本件ゴルフ場の経営に対し、危惧感を覚えた。また、本件引渡執行の結果、原告は三国商工に対し、事実経過を伝えざるを得なくなり、同社に対する信用を失った。右信用毀損による損害は五〇〇万円を下らない。

【被告ら-事実は不知。損害であることは争う。なお、グリーン用スィーパー及びバンカー均し機については引渡執行をしていない。】

4  よって、原告は、被告らに対し、各自、八七三二万二〇〇〇円及びこれに対する不法行為より後であることが明らかな平成一一年一二月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三判断

一  動産に対する強制執行は、「債務者の占有する動産」を執行官が差し押さえることによりなされるが(民事執行法一二三条一項)、ここで「債務者の占有」とは、債務者が外観上直接に支配を及ぼしている状態(所持)をいうものと解するのが相当であり、その有無は執行官が具体的事案に応じ、外形的状況を基準として判断することとなる。

二  執行官が、本件動産執行における差押物を武蔵総合ランドの「占有(所持)」下にあると認めたことについてであるが、原告は、武蔵総合ランドから日本エネルギーへの営業譲渡契約の存在を指摘するが、仮に、右契約が締結されていたとしてもそれは必ずしも武蔵総合ランドの「占有(所持)」と相容れないものではないのであるから、右契約の存在から直ちに執行官の過失を基礎づけることはできないのみならず、本件においては、<1>本件動産執行当時、右営業譲渡契約の効果は発生しておらず(乙5)、したがって、武蔵総合ランドが営業者としての地位を有しており、<2>本件動産執行においては、武蔵総合ランドの営業部長や課長がその執行に立会し(乙4、丙1)、<3>差押対象物の所有権については主張を述べたものの、武蔵総合ランドの「占有(所持)」それ自体について何らかの主張をした形跡のないこと(乙4、丙1)に照らすと、執行官が、本件ゴルフ場内の動産について武蔵総合ランドに「占有(所持)」があると認定したことについて、過失があるとは認められず、他に執行官の過失を認めるに足りる証拠はない。

三  次に、第三者の所有物であることの申し出や、証拠書類が提出された場合について検討するに、この場合においてもその物が債務者の「占有(所持)」にあると認められるときは、差押えは許されるものと解するのが相当である。ただ、外観上から判断される債務者の「占有(所持)」それ自体が、債務者の所有の蓋然性の徴表とならず、かえってその外観から他人の所有物であることが明らかな場合には差押えが許されないと解する余地はある。すなわち、他人の物の保管を当然に伴うような営業を行う債務者の所持にかかる物であるなど所持が所有と結びつかず、かつ、債務者の使用物と区別されて保管されているなど、他人の所有物であることを推測せしめる場合においては、右のように解する余地がある。しかし、本件においては、ゴルフ場で使用されるゴルフカート等に対する差押えが問題となっているところ、ゴルフ場の営業内容やその差押対象物に照らすと、右例外的場合に該当すると解する余地はなく、したがって、原告の主張のとおり、中村貞成が契約書を提示して説明し、カート等にステッカーが貼付されていたとしても、執行官が武蔵総合ランドに「占有(所持)」があるとして差押えをしたことが違法であると認めることはできない。

四  さらに、原告は、執行官が債務者の利益を考慮すべき義務を怠った旨主張するが、具体的に本件動産執行のいずれの点に右義務違反があったのか、執行官の過失等を基礎づける具体的事実の指摘がなく、主張自体失当である。

五  以上のとおり、本件動産執行が違法であると認めることはできないのであるから、本件動産執行の違法及びそれを前提とする本件引渡執行の違法を根拠とする原告の請求は、その余について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 坪井宣幸)

別紙<省略>

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